2018/6/1 ベスト6月号 巻頭言を掲載しました
荒波のしけ模様が続く国際関係
~本質を逃さない冷静な目~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
筆者の経歴からか、警察官昇任試験での国際関係に関する勉強(備え)の在り方を問われることが少なくない。さほど変わったことがあるわけでもないが、皆さんの勉強の在り方の確認に役立つ範囲で概観してみたい。
警察官にとって、国際問題を理解し語る見識とはどういうことかと考えることだ。目まぐるしく変化する国際関係は、否応なしに私たちの身近に影響を及ぼす。警察官も、そうした例外ではありえない。だからと言って、国際関係は複雑で、容易に理解できるような代物ではない。
専門家といえども、本当に理解しているとは到底いえない。その多くは複雑に絡み合い、どうなっているのか分かりにくい。まして、将来の見通しなどは分からないというのが現実だ。国際関係に関する見方というのは、いわば、「私はこう思う」という1つの見方を語っているにすぎない。
断定することなく、「こう思う」という1つの見方を話しているということだ。そうしたことを踏まえて、1つの見方を持つことができるレベルの知識が求められる。そうした話題にあって、警察官には、様々な意見に耳を傾ける冷静さが肝要だ。「事実」と「意見」を整理できることがポイントになる。そこが混乱していると、分かっていないということになる。
警察官にとっては、治安と密接に関係してくることへの知識・見識が求められる。ということで、警察官として視野に置いておくべきテーマを概観してみよう。言い換えれば、それらが昇任試験の出題で可能性が高い範囲になる。
1 最大の焦点は、朝鮮半島情勢となる。
北朝鮮のミサイルが発射されると「Jアラート」が発令される。短時間で着弾する可能性があるということで、地下、堅固な建物などに退避することになる。室内にいる場合は窓から離れ、トイレ、風呂などできるだけ壁で囲まれたところに移動したい。着弾した場合に予想される突風による様々な被害に備えるのだ。
欧米では、核爆弾の被害から身を守る方法を教育している。屋外の場合は窪地に身を伏せ、目や耳などを手で覆うのだなどと教えられる。
北朝鮮情勢については、国民の関心も高いので日頃から注意しておく必要があるだろう。職務に関係するので、教養資料などをまとめておくべきだ。
2 テロ関連~欧米でのテロ情勢及び中東情勢を中心とした情勢
例えば、アメリカによるエルサレムのイスラエルの首都としての承認とそれに対するアラブ、イスラム教徒などの反発。我が国に地理的に関連の深いASEAN では、インドネシアが最大のイスラム教徒を抱える国だ。マレーシア、フィリピンのミンダナオ島もイスラム教徒圏。中国でも西部の新彊ウイグル自治区には多数のイスラム教徒がいる。これらの地域に関する情勢にも目配りが欠かせない。東京オリンピックへの備えで、テロ情勢への関心が高まることは必至。テロ関連での備えは大きなポイントになるだろう。
3 中国情勢
来日外国人の多さ、華僑の存在、尖閣といったデリケートな領土問題、などなど……中国と我が国治安との関わりは深い。何といっても、人口14 億という巨大な存在である中国への関心は重要だ。中国は「一帯一路」という現代版シルクロード経済圏構想を打ち出している。また「中華民族の偉大な復興」をスローガンに、共産党中心の民族国家形成を推し進めている。また、習近平国家主席が権力を固め個人崇拝色が強まっている。こうした基本を押さえておくことが大切だ。
4 ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領
米ロ両大国で、いずれも個性派の大統領が話題となっている。国際関係で話題となる、これら指導者についても「一言」言えるレベルでなければならない。
警察官に求められるのは冷静なスタンス。そういう前提で、国際問題にも関心を持っているという安定感が求められる。必ずしも深い知識である必要はない。偏らない対応のできる常識的な知識を身に付けるという心得が肝要だ。その時その時の時事問題への目配りとして、上記のポイントを中心に押さえておきたい。