巻頭言

2018.11.01
巻頭言

2018/11/1 ベスト11月号 巻頭を掲載しました

冷静沈着で、客観的な視点
~見つめるもう一人の自分~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

消防、自衛隊、看護師などなど。制服の社会は、どこも独特の雰囲気が伴っていることを忘れてはならない。

制服は何のために存在するのだろうか。

そもそも制服とは他と区別すること、目立たたせることを狙っている。他者との間に壁を設け、分け隔てること。一般の人から見て、その人がどういう任務の人かを明確にするということだ。制服を着ている人に、その任務を認識・自覚させることも狙いといえる。制服を着ている人には、「周囲から見られている」という副次的効果を伴う。自覚を促し、自己規制を促すことも期待されているのだ。

数ある制服の中でも、けん銃を持ち、逮捕権限という強権をもって周囲を監視する任務を帯びている警察官の制服は、制服中の制服ということもできるだろう。だから、監視される側は、異質・特別な存在だと認識している度合いが際立って高い。制服を着ている人にはその任務を強く意識させる。連帯感を生み、使命感をも生むという結果にもつながる。

制服を着ている人と着ていない人が明確に分けられる。制服を着ている人はそれだけで特殊化する。警察官社会は、一般とは異なる特殊集団・特殊社会となる宿命にある。そのような壁の中にいる存在の警察官が心得なければならないことは、常に自分を客観的に見るということだ。そのための努力は容易ではない。

では、具体的には、どうしたらいいのか。

個人的な経験を踏まえ、自分の斜め後ろ、少し上方にもう一人の自分、いわば、自分を見つめる自分を持つことをお勧めしたい。やや上の斜め後ろから自分を見つめるもう一人の自分。その視点から自分を見るということは、冷静に、より客観的に自分を見ることを可能にする。そのちょっとした距離感がいい。遠からず近からず。時々、声をかけ励ますのだ。イヨ~調子はどうだい……などと。何事にあっても、少し違った視点に立てることは有益だ。

人間は感情の動物でもある。それが様々な緊急事態に臨んで判断していく。警察官の職務は緊急性の高い、異常事態の連続となる。感情に左右され、一方の立場から見がちにならないとも言えない。どんな現場に臨んでも、冷静に客観的な視点に立つことが求められる。自分を見るもう一人の自分という視点は、自己を顧みる有効な手段であることは間違いない。

警察官は制服を着ると身が引き締まる。使命感を自覚させる。と同時に、一般から隔てられた特殊社会に置かれる。そうした宿命的な特性も、各自の方法で自覚、必要な修正を加えることは欠かせない。

また、冷静さを保つための秘訣は人さまざま。結局は、最も自分に合う方法を探し出すしかない。私の方法もその1つの選択肢として試みてもらえれば幸いだ。一生共にする運命にあるもう一人の自分。そうした無二の相棒と上手に付き合いたいものだ。

警察官という職業の特殊性をしっかり認識し、誇りを持って日々過ごすことは有益なことであることは間違いない。

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