巻頭言

2018.12.01
巻頭言

2018/12/1 ベスト12月号 巻頭言を掲載しました

真似る心掛けの大切さ
~人間観察力が基本~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

教え子の現役警察官から、最近、よく聞かれる「問い」がある。どうしたら理想の(一人前の)警察官になれるのか?という問いだ。
そう問うてくる教え子は、警察官を極めようとの高い志を抱いた人だから、軽々に受け流すことができず、その答えは自ずと慎重にならざるを得ない。

警察の業務の難しさの根源は、生きた人間を扱うことにある。そこが難しさであると同時に、警察官の仕事の醍醐味でもある。人間探求を目指す者にとって、警察官は理想の職業だと考える。人間はそれぞれの個性があり、一人ひとり異なる特性を有する。人間関係という面では、それが複雑に絡み合っている。まさに複雑怪奇。警察官が扱うのは、その最も複雑に絡み合ったものということになる。しかも、心の奥底まで迫ることが求められる。
これこそ、それを整理し裁く立場にある警察官には優れて人間観察力が問われているという所以だ。そこでは、心のひだの奥まで観察することが求められる。少なくとも、そういう意欲を抱いて人間に接すべきだ。当然ながら、マニュアルや教科書だけで済ますことはできない。観察力を養成するには、自分自身の人間への理解力を深めることが大前提となる。

警察官には心の修養が求められるのだ。その手段として、読書や美術・音楽の鑑賞などは有効だ。チャンスがあれば、進んでやってみることをお勧めする。伝記はその人物の人生から学べることが多い。色々な人の話を聞くことも有益だ。生きた人間の話は貴重だ。ましてや、直接受け答えしてもらえるということは、かけがえのない機会だ。何よりも自分自身が人間に関心を持ち、考えることから始まる。自分自身が人間関係をよく味わうことと言い換えられる。

職場にあっては、尊敬できる先輩の仕事ぶりをよく見ることから始めたらいい。尊敬できるということは、好感を抱いているということ。好感を抱けば、心の深いところに素直に入っていきやすい。だから、仕事のできる先輩を真似ることが自ら素晴らしい警察官になる近道なのだ。心に響いていると、マネすることに抵抗が少ないだろう。尊敬する先輩ならどう考えるだろうかという発想は有益だ。尊敬する先輩の導きなら素直に聞くことができる。素晴らしい先輩を真似るということの積み重ねで、いつしか、自らが後輩から、真似をしたいと思われるような存在になれるというものだ。
真似るということは、修養の友好な手法だ。「学ぶ」とは真似ることから始まるともいえる。

昇任試験の準備は、効率の良さが強調されるのは当然だ。しかし、本当はその前提の人間の在り方を顧みるゆとりが、より肝要ということを忘れてはならない。

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