ベスト8月号 巻頭言を掲載しました
論考 警察とは
~危機的状況下での基本の確認~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
緊急事態宣言が発せられ(2020年4月7日)、国を挙げて感染症対策に取り組んでいる。その関連で、改めて警察への様々な期待が高まる中、「警察とは何か?」「警察権限行使の留意点は?」という足元に関する出題が予想される。本稿では、そうした問いに対する、必要にして十分なポイントを見直しておきたい。
ここでも全ての基本は警察法に始まる。
警察法は「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。」(2条1項)、「都道府県警察は、当該都道府県の区域につき、第2条の責務に任ずる。」(36条2項)と規定している。
これら両規定により、警察の職務は、端的に言えば、「公共の安全と秩序の維持」ということになる。実務としてはこの規定が全ての基本となる。
警察権限行使の目的は、憲法の定める「国民の福祉の増進」「公共の福祉の実現」である。とは言え、その為になんでもできるのかと言えば、もちろん、そうはならない。基本的人権の遵守をはじめ、特に、権力的手段の行使に関して、様々な規制が存在する。
端的に言えば、権力的手段を用いるには、法律上の根拠がなくてはならない。警察に関しては、警職法、刑訴法、道交法、風適法などはそうした根拠の代表だ。規則や通達などは、これらを受けて作成されている。
実務では、こうした根拠に従って職務執行に当たっているわけで、立ち返って再確認しておくとよいであろう。
さて、警察の権限行使に関して、学問上、主にその限界について、それぞれの時代背景の中での論争がなされてきた。その中で、今日でも、警察の権限行使に関して、基本的な考えとして、押さえておくべき主要なものとして、①警察公共の原則、②警察比例の原則が挙げられる。
「警察公共の原則」……警察の権限行使は、公共の秩序と安寧を維持するという消極目的のためのみに発動することができるという考え。これにより、私生活不可侵、民事不介入が導かれる。しかし、近年DVや児童虐待などの多発を受け、この原則には修正が重ねられ、現在では、私生活への警察権限行使は、慎重な考慮のうえでなければならないという程度にまで修正されている。あらゆる原則は時代の要請の中で修正されていく典型ともいえる。
「警察比例の原則」……警察の権限行使は、目的との具体的なバランスを考慮してなされなければならないという考え。例えば、軽い罪を犯したにすぎない者に対して、けん銃を使用してはならない。何事も程度問題、バランスが求められる。
様々な問題が生じる度に、警察に対する期待感が生じている昨今であるが、警察は最後の切り札として、軽々に前に出ることはしないようにすべきである。できるだけ他の行政機関に担当してもらい、各方面との協力を前提にして、警察は警察でなくてはできない分野について、常に「国民と共に」という考えで力を合わせての取り組むのがいい。今回のコロナ感染症危機にあっても、同様である。
「警察とは何か?」という問いに対して、ポイントを押さえた解答をするには、原理原則である警察法の規定に立ち返るとともに、時代の要請に対し敏感に対応している点に着目することが肝要である。