巻頭言

2020.12.01
巻頭言

ベスト12月号 巻頭言を掲載しました

歴史的な1年を振り返って
~積極的にデジタル活用を~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 今年は、異質な一年だった。きっと生涯忘れることのできない年となるだろう。角ある節目となる年もまもなく閉じようとしている。年末の忙しい時期だが、一時立ち止まり、静かに、過ぎ去ろうとしている特別な年の意義を考えてみることは有意義だ。

 球磨川、最上川などの洪水や記録的猛暑など、例年ならば紙幅を割いて総括するに値する災害などもあった。しかし、何と言っても、世界的なパンデミック発生の衝撃はあまりに大きかった。
 誰しもが新型コロナウイルスの恐ろしさを味わった。感染経路から治療法まで分からないことだらけという底なしの恐怖感の経験は、おそらく生涯で初めてだった。人類は歴史の記憶としては感染症パンデミックの存在は知っていた。しかし、医学の進歩で克服したはるか昔のことだと思っていた。
 その経験は私たちに何を残すのだろうか。私たちはどのように変化するのだろうか。社会の変化、人々の生き方の変化は、治安の専門家たる警察官にとって、真剣に考えるべきテーマだ。

 新型コロナでの最大の気づきは我が国のデジタル対応の欠陥であり、特に行政サイドの遅れはあまりにも酷かった。データを分析する環境も人材も揃っていないことなどが明らかになった。
 警察はどうだろうか。
 東大大学院工学系研究科麻美泰司教授らの研究によれば、市販のドライブレコーダー画像からAIを用いて道路標識などを抽出管理できる。横断歩道のペイントや道路標識の劣化状況も自動的に検出できる。交通事故の起きそうな地点さえ、リアルタイムで割り出し可能。いくつかの県警の実際の事故発生箇所と、驚くほど一致するという。この例からも、デジタル利用を積極的に取り入れるべきことに疑いはない。

 右肩上がりで豊かになるといった時代は終わったのではないか。効率の良さを競う時代も終わったのではないか。利益を競う社会構造も急速に変化するだろう。人々は、安心できる社会を求めるようになるだろう。安全安心の担い手たる警察官にとっては今まで以上にみんなの期待を感じざるを得ない。

 国際社会の構造にも大きな変化の生じた年だった。ズバリ、これから数十年にわたり米中両大国の対立の時代となるということだ。パンデミックの中での米中対立が本格的となった。
 実は、米中対立には、国際関係を巡る構造を変えようとする中露の思惑が背景にある。例えば、シリア情勢を見れば分かりやすい。内戦に明け暮れ国民の半数以上が住居を追われたシリアを、国連は10年にもわたり何もできずに放置してきた。国連を中心とした国際秩序は機能麻痺、崩壊状態といっていい。背景には、欧米に対する中露の思惑の対立があり、国際紛争は剥き出しの力に任される状態になっている。
 国際関係の秩序、法の尊重といった価値観が無視され続けるという現実。これからの国際関係はこれまで以上に混沌としたものとなるだろう。我が国でも、安全保障などを巡る議論の変化が予想される。

 何はともあれ、皆さんと皆さんのご家族にとって、新たな年が幸せなものになることを祈念する。
 本誌編集部一同、来るべき年が皆さんの念願成就の年となるよう、全力で応援することを誓って筆を置きたい。

巻頭言一覧ページに戻る