ベスト2月号 巻頭言を掲載しました
治安の視点から見た米大統領選
~SNSの促進した社会分断の危険性~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
国際情勢と我が国の治安の関わりという視点は重要だ。特に、昇任試験にあってはそうした問題意識が肝要であり、「常にちゃんと勉強していますよ」という姿勢のアピールになる。
先のアメリカ大統領選は、民主主義社会の根底にある諸問題を浮き彫りにした。本稿では、治安の視点から、我が国にも影響を持つと思われる若干の問題を考察しておこう。トランプ前大統領の特異な性格故の問題点は触れずに、現代社会の問題というアプローチに限定したい。
最大の問題点は、SNS普及の危険な側面だ。SNSは、知人や友人のほか、自分が読みたいと思う投稿をする人を登録・フォローして利用する。この仕組みが、自らが好ましいと思う情報だけの世界に閉じこもりがちな人を増やした。こうして様々に分断された人々は、対立を煽られたときに、他者に対する憎悪や怒りに燃え上りやすい。先のアメリカ大統領選では、人種、宗教・宗派、貧富(失業・低賃金)、学歴などで煽り合い、感情を伴った熱狂に火が付いた。
更に厄介なのは、感情に火がつくと、妥協が難しくなり、対立が先鋭化することだ。妥協は敵に対する弱腰・味方に対する裏切りとなり、中道的な立場は日和見とされる。あるのは敵か味方かだ。これは決してアメリカに限った話ではない。世界各地で分断を煽る手法の政治家が増えている。いわゆる大衆迎合・ポピュリズムと言われる政治家だ。職を奪う移民反対、既存のマスコミは既得権益擁護者だ、などと煽る。得てして、こうした政治家は、民主的選挙で手にした自らの権力まで、強権的なもの、持続的なものにしたがる傾向にある。
情報伝達手段の進歩が急激で、人々はあふれる情報の海の中で翻弄されがちだ。今、最も大切なのは、情報リテラシー(情報活用力)を身に付けることであり、そうした教育の強化が急務である。大切なのはあふれる情報の取捨選択であり、その判断力なのだ。
我が国でも、昨今の経済的な格差拡大傾向には注意する必要がある。折からの新型コロナ感染症の影響で生じている様々な社会的弱者に対するきめの細かな配意が肝要だ。DVや育児放棄、独居高齢者、引きこもり、ヘイトスピーチなど目を向けるべきものは多岐にわたる。治安問題としても十分な目配りが欠かせない。
オリンピック等との関連で、最後にテロへの警戒に触れたい。アメリカが内にこもる傾向にある中、世界各地での紛争が多発する傾向にある。特に中東地域において、イランやトルコの関わる紛争の増加が懸念される。我が国に影響の大きい中国が強権を強める香港や、南・東シナ海、ウイグルなどでの対立激化にも警戒が怠れない。孤立を深める北朝鮮情勢も深刻化している。我が国において、テロ対策の重要性は上昇の一途をたどる。
以上の視点は、所属がどこであれ警察官であれば持っておきたいものである。昇任試験対策(特に論文・面接)としても有効であろう。