ベスト4月号 巻頭言を掲載しました
不安に満ちた激変の時代
~求められる警察官像と一人ひとりの決意~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
私達は、今まさに数百年に一度といった変化の時代を迎えている。それは何も新型コロナ・パンデミックだけが原因ではない。ある日突然襲い掛かった今回のコロナ騒動の影響は大きかった。しかし、たとえ今回の騒動がなくても変化は起きていた。コロナ騒動はその変化を劇的に早めたにすぎない。
変化の時代は、生き方や心の持ち方といった奥深い部分からの変化を迫る。それだけ人々の不安が激しい。
また、我が国にあっては国際関係の変化も激しい。アジアの先進国として、ある種の自信に満ちた日々は、とうに過ぎ去りつつあることに焦りを感じる人も少なくないだろう。
中国の台頭はいよいよ急を告げている。はるかに後進であった中国は、10年前に我が国に並んだと思えば、今は既に3倍にもなっている。10年後には5~6倍になるのも間違いないであろう。
先のアメリカ大統領選挙では、これまでの時代の延長線上に未来を見ることへの疑問符を感じた人が多かったであろう。安全保障をはじめ、多くの分野でアメリカに依存してきた我が国の在り方が曲がり角を迎えている。底知れない不安感が漂っていてもおかしくない。
加えて、今回の不安感は一人ひとりの暮らしを揺さぶっている。人々の不安感は、我が身に迫っているのだ。ズバリ、各自が巻き込まれるかもしれない収入減や失業への怯えということだ。物作り中心から知的生産中心への産業構造変化は、多くの人々の人生を巻き込んで揺さぶる可能性を秘めている。
銀行員、新聞記者、広告営業、タクシー運転手、受付、事務職など、消える仕事と名指しされ、不安に駆られる人も少なくない。家電から自動車などの物作りによって勝ち組の地位を築いただけに、我が国は産業構造の変化を求められた場合の痛みも大きく、関連する人々の不安感は大きい。
また、この度のコロナ渦の影響で、非正規労働者や女性など弱い立場の人々の打撃も少なくない。いちいちあげればきりがなく、いよいよ大きな変動が避けられないという不安を感じている人が少なくないという認識が欠かせない。
社会全体に不安が満ちているということは、言い換えれば、治安上の難しい問題が山積する時代ということだ。社会の安全安心の担い手たる警察官にとって、まさに働きがいのある時代になる。警察官の仕事は、消える仕事の真逆、まさに時代に求められる仕事であって、一層忙しくなる。厳しい時代に挑戦する気持ちで臨んでもらいたい。
人口減少の時代の中で容易に増員を期待するということもできない。一人ひとりに、人々の様々な不安に対応した働きが期待されることになる。社会の各方面に満ちた不安と不満は、益々増大するだろう。治安悪化は必至とすら思われる。
人口減少の時代、国際化も進み、外国人との間に各種摩擦も増大するだろう。国際的な犯罪やヘイトクライムなどへの警戒も怠れない。ネット・IT・スマホ関連犯罪やSNSの絡んだ問題などへの目配りも求められる。そうした認識の下、時代の要請に応える各自の能力開発への決意が欠かせない。各自に求められる能力は多様になる。複数の任務への対応力。マルチな働きへの要請にも前向きに臨んでほしい。自己啓発の欠かせない時代なのである。