巻頭言

2021.07.01
巻頭言

ベスト7月号 巻頭言を掲載しました

警察官の政治的中立
~幹部に求められる危機対処心得~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 部下が選挙ビラを貼っていると耳にした場合どう対処するのか?幹部試験になると、意表を突くような問いが飛んでくることがある。

<基礎知識チェックポイント>
 公務員も国民として、憲法21条の表現の自由が保障されているが、行政の公正な運営等のため合理的で必要やむを得ない限度で、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為をすることは禁止されている。
 具体的制約については、服務規程等諸規定で定めている。裁判(猿払事件など)で争われたこともあるように、最終的には司法の判断になる。

 逮捕や拳銃使用など強い権限行使を担う警察に関しては、政治的中立においても慎重な制度がとられており、政治的中立と行政責任の明確化との調和を担う機関として、国には国家公安委員会、都道府県には都道府県公安委員会が設けられている。
 警察官に関する具体的な各種苦情は警察庁、都道府県警本部の監察官室でも受け付けている。

<昇任試験での心得>
 正面から扱われることの少ない問題だが、実務的にしっかりと心得ておくべき点を列記する。

1 機微な事案への慎重な対応
 回答するのが難しい微妙な問題に関しては、まずもって慎重な対応が求められる。特に幹部であればあるほど、自らに影響があることをわきまえなければならない。万一問われたならば、慎重対応という回答で合格だ。軽率に回答すると、自信過剰ととられかねない。
 政治、宗教、性的マイノリティー問題などのデリケートな問題には、慎重でなければならない。思わぬ波紋を呼び大問題となることもあり、上司の発した軽率な言動がその原因であることが少なくない。部外からの抗議事案を含め、昨今では、そうした言動が録音されていることが多いと意識する必要がある。
 苦情や抗議対応はもちろん、部下の行動に関するデリケートな情報を得た場合は、まずは上司に相談したうえで組織的な対応をしなくてはならない。

2 監察官(室)に関する理解
 監察官は、業務遂行や不祥事などを評価・監察し、さらには外部からの苦情、抗議などへも対処する。監察官(室)は、警察組織全般の危機管理、すなわち、組織内での自浄作用を担っている。得てして見過ごされがちな、監察官(室)の果たしている役割に関する問いへの備えをしておくべきだ。

3 信念・確信に基づく事案への感度
 幹部には感度のよさが求められる。鈍感では危ういのだ。お薦めの心得は、聞き役に回ることだ。部下の言うことを途中で遮らないで聞くよう、日頃から心掛けたい。
<終わりに>
 最終面接などでの意表を突いた問いには、落ち着いた対応が肝要だ。面接官は合格させると判断したうえで試していると受け止め、冷静に応じたい。動じないことが好印象を生むのだから。

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