巻頭言

2021.12.01
巻頭言

ベスト12月号 巻頭言を掲載しました

2021年の回顧
~新型コロナ・パンデミック下の警察活動~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 歳末警戒の声を聞くと、急に時の経過が足早になったように感じる。恒例により、過ぎ行く1年を振り返ってみたい。

 今年は、昨年に引き続き、世界的新型コロナ・パンデミックとの戦いに明け暮れた。警察としては、全国一丸、緊急事態宣言下の様々な困難を乗り越え、延期されていた東京2020オリンピック・パラリンピックを無事開催し終えられたことが、最も大きな出来事といえよう。国際的にも、我が国の危機下におけるプロジェクト遂行能力の成熟度を示すことができた。
 新型コロナ対応が直接・間接に影響し、菅前総理が辞任して、岸田新総理が誕生、そして総選挙と、政治の変動が続いた。気が付けば歳末警戒に明け暮れるという状況である。警察にとっては、極めて多忙で走り続けた一年だった。
 緊急事態宣言が長期化する中、ストレスや孤立感の高まりが原因なのか、DV、児童虐待、ネット犯罪や各種特殊犯罪などが増加し、対応を求められた。休業中の店舗への侵入盗、各種給付金の不正受給なども発生し、怒りの声が高まった。感染者の自宅での孤独死や自殺などのもたらす、特異な不安の高まりへの配意も欠かせなかった。社会の底支えとして、警察活動がもたらす安全・安心感を醸成することの重要性が強く感じられる一年だった。
 温暖化の影響なのか、各種自然災害も発生した。特に、8月の前線停滞に伴う長雨は、熱海の欠陥盛り土に起因するとみられる土石流(盛り土崩落)をはじめ、各地でがけ崩れなどを多発させた。
 新型コロナがもたらす警察活動に対する影響も注目されており、現場でいろいろな人と直接接触することが欠かせない警察官の感染防止対策が最も重要な課題となっている。

 国際的には米中の対立関係がいよいよ深刻化した。特にアフガニスタンでの米国主導の20年に及ぶ対テロ戦争での大転換が起きた。8月に米国が駐留軍を撤退させたことによって、20年ぶりに復帰したタリバンによる統治の行く末について、不安感が高まっている。
 我が国の周辺では、北朝鮮のミサイル発射や中国の尖閣諸島海域への圧迫など、国際ルールをものともしない振る舞いが相変わらず行われている。更には、我が国と韓国との関係こじれも、解決のめどが立っていない。
 国際関係のこじれは、各種ヘイトクライムの温床ともなる。警察にとって、国際的目配りの欠かせない所以であることは言うまでもない。

 少子高齢化の影響もいよいよ各方面に目立つ中、警察としても、新規採用試験への応募者の減少などが顕著になった。後継者確保は治安活動の大前提であることから、全力を傾けた対応が急務となっている。
 サイバー空間での脅威もコロナ対応での在宅勤務が増加する中、各方面の注目を集めた。4月、警視庁公安部が、宇宙航空研究開発機構へのサイバー攻撃に関与したとして、中国共産党員である男性を名指しして公表したことも特記すべきだ。

 いろいろあったが、いよいよ迫る年の瀬。行く年の課題を踏まえ、新たな年への抱負・決意を固める絶好の機会としていただきたい。本誌執筆者一同、皆さんの念願成就への支援を誓って、年末のご挨拶としたい。
 ご家族お揃いでお元気に新たな年をお迎えください。社員一同、皆様の平穏でお健やかな年越しでありますよう、心よりお祈りしています。

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