ベスト6月号 巻頭言を掲載しました
ウクライナ危機の教訓
~警察官の視点から~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
ロシアのウクライナ侵攻は、戦争の悲惨さを、私たちの自宅にほぼリアルタイムで伝えられた最初の事例となった。その衝撃が、各方面に様々な影響を及ぼすことは必至だ。本稿では、警察官の視点での我が国にとっての課題のポイントを整理しておこう。昇任試験、とりわけ面接での出題の可能性が高いと思われるからだ。
1 情報環境の急速な変化
まず、情報技術の急速な進歩への対応が重要だ。警察として様々な課題があるが、個々の警察官として積極的なチャレンジ精神が求められる。
⑴ スマホ・インターネットの影響力
何といっても、スマホで撮影した映像が瞬時に世界各国にいる個々人へ拡散されるという、今日の情報の状況への理解が欠かせない。その影響力の大きさを目の当たりにした。警察官としてそうした現実の理解が必至だ。
もっとも、偽情報(流言飛語)も多いことについては、危機における人間の行動への観点から、専門的な対応検討が欠かせない。現代版流言飛語はその影響力が桁違いになる可能性がある。2016年のアメリカ大統領選挙で、フェイクニュースがロシアなどから発信され、大きな問題となったことは記憶に新しい。
⑵ サイバー攻撃
詳細は徐々に明らかにされるだろうが、今次ウクライナ危機でのサイバー攻撃の重要性への認識が欠かせない。
本年4月、昨今のサイバー攻撃多発化を踏まえて、警察庁サイバー警察局と関東管区警察局サイバー特別捜査隊が発足された。重要インフラを含む各方面への攻撃や海外の犯罪グループが関わるサイバー事件に対応し、安全・安心なサイバー空間を実現することが期待されている。
2 国際関係の変化~激しく競いあう米中関係
続いて、我が国を取り巻く国際関係が極めて難しくなることへの覚悟が求められる。我が国を取り巻く国際環境は以下のように厳しい。これらへの関心を持つことが欠かせない。
⑴ 中国の台湾侵攻
中国の習近平総書記は、本年秋異例の三期目に入る可能性が高い。その任期が切れる2027年までに台湾を中国に統一させるという執念が感じられる。ウクライナへのロシア侵攻は、その先行事例視されているのだ。我が国の治安問題としても、その重要性は言うまでもない。我が国はその真っただ中に置かれているのだ。そうした認識での中国情勢への関心が欠かせない。
⑵ 軍事が頼みの北朝鮮
軍事力によって体制を維持しようという、北朝鮮の我が国への影響力の大きさは改めて言うまでもない。
⑶ 北方でのロシアとの軋轢
欧米との長期対立関係が避けられないロシアとの間で、北方に領土問題を抱えていることを忘れてはならない。ウクライナ危機は我が国の危機、という認識が欠かせない。
これから治安の観点を中心に、我が国を取り巻く国際環境に関して、随時、ズバリと考察・紹介していきたいと思っている。乞うご期待。
警察官にとって、国際情勢の勉強をすることは、今までと比べて格段に重要になってきている。