巻頭言

2022.10.01
巻頭言

ベスト10月号 巻頭言を掲載しました

自分のすべきこととして警護問題を考えよう
~ポイントは情報収集力の向上~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 警護の失敗は、警察の責務がストレートに問われ、警察の在り方に関わる深刻な問題となる。安倍元首相の参院選応援演説中の銃撃死亡事件は、警護の在り方に関して多くの反省点を突き付けた。警察庁は総力を挙げて問題点を点検、改善すべき諸点を提示した。提案された事項は、警護員練度向上策、資器材、警護計画など多方面にわたり、いずれも早急に実施されることを期待したい。
 昇任試験対策としても、全ての警察官に共通する警護関連の情報収集が重要となる。警護に携わったことのない者であっても、対岸の火事ではなく、他山の石としなければならない。

 警護体制は重大事件を受けて改善・充実されてきた。例えば、岸首相の官邸内での刺傷、3か月後浅沼稲次郎社会党委員長の演説中の刺殺(1960年)、ライシャワー駐日米大使刺傷(1964年)などを受けて、警視庁で警護課が独立した。そして、武道館での佐藤栄作元首相国葬において三木首相が殴打されたこと(1975年)を受けて、警視庁警護課にSPが創設された。今回は、今のところ新たな組織の提案はないようだ。警護担当者増員や研修などでの改善などが強調されている。

 私は、今回の事件について、警護における情報収集力向上策が最大の問題だと考えている。
 社会全体で、人間のつながりが希薄になり、問題ある人物の情報が警察に伝わりにくくなっている。警察の情報収集力が劣化しているのである。
 犯人は、犯行前日の早朝、宗教施設に向け、銃を試射しており、近所住民は、大きな異様な音を聞いている。そして、銃を大きなかばんに入れ、安倍元首相を追いかけて岡山まで新幹線で移動していたという。また、犯人マンション内での異様なノコギリ音を、近隣の人が「何をしているのだろう?」と感じていた。さらには、強い恨みや犯行を匂わす投稿が当該宗教団体追及サイトに書き込まれてもいた。残念なことに、警察が事前にこれらに気付くこともなかったのだった。

 警護には事前の情報収集が求められる。この情報収集には万全ということはなく、警察だけでできることでもない。つまり、安全安心向上策には、社会全体としての情報収集力が大きく影響してくる。警察官は、どの係であっても、自分の立場で、情報収集力向上のために何ができるかを考えてみてもらいたい。昇任試験では、そうした姿勢での具体的な取り組みが求められる。警護は専門係の問題だけではない。

 巡回連絡、職質での改善点は多い。銃製造に関係する材料、サイトなどへの留意も欠かせない。ネット上での情報収集に関しては、専門係の増強などが検討されるだろう。私は、民間の協力が要になると思う。サイバー関係における協力者の力の結集・組織化などを検討すべきだと思うのだ。ウクライナ戦争において、サイバー面で民間協力を受けて戦力化することが効果的であったことに見習いたい。ネットを活用した警察への情報提供を求めることなども有望ではないだろうか。若い皆さんの様々な提案に期待したい。

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