ベスト2023年2月号 巻頭言を掲載しました
昇任に魅力を感じない
~時代の変化が反映する管理問題~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
「苦労して勉強して昇任試験に合格するメリットあるの?」
「幹部になっても責任が増すだけ。それに見合う待遇はないんじゃないの?」
私は、警察官退職後にいくつかの地方自治体で顧問・各種審議委員会委員などを経験したが、その間、多くの自治体でこのような声を聞いた。いずれも幹部昇任試験受験者が減少しており、幹部昇任を忌避する人の増加に悩んでいた。
これは、我が国の公務員に共通する構造的・制度的欠陥の問題といえよう。その中には、組織特有の問題もあって、例えば、表向きの管理体系のほかに、組合の存在が大きいゆえに起こる問題が存在し、それが強く管理職の魅力を削いでいる自治体も散見される。こうした問題は警察とは関わりがないのでここでは深入りしないが、警察にも独特の問題がある。規律の厳しさ、緊張した仕事、管理職の責任の重さなど。これらをしっかり受け止め、考えることが幹部警察官を目指す者には求められてくる。
公務員に共通する構造的・制度的欠陥に話を戻すと、最もよく聞かれる「昇任しても責任が重くなるだけで、それに見合う待遇が得られない」という声からも分かるように、まずは給与体系、中でも管理職手当の低さが挙げられる。
他国の警察官給与体系を見てみると、アメリカでは、自治体ごとに異なるものの、おおむね幹部昇任に伴う昇給が大きい。階級昇任するごとにはっきり分かる額の昇給が待っている。例えば、巡査部長試験に受かれば給与が5万円アップする、というような。反面で、同一階級に10年留まれば、昇給はストップされる、という具合だ。
何事もドライというか、自己管理を促すルールで管理される。職務に必要な能力・体力に関して毎年審査があり、拳銃射撃・体重・血圧・走力など、それぞれの職務の年齢ごとの基準に達しなければ、一定期間後の再審査の結果次第で免職にもなり得る。
これに対して、我が国の労働慣行は、新卒採用、年功賃金、終身雇用であり、これにはメリットとデメリットがあるが、ここ30年余り長期停滞感が強く、見直し機運が高まりつつある。民間企業では、ジョブ型雇用制度を採用する試みも始まっているほか、情報技術の進歩などの社会環境の変化の大きさ・早さから不安感が高まり、リスキリング(学び直し)などという言葉が流行している。
警察にあっても改善策・対策の検討が迫られている。まずは、意識改革が欠かせない。それは、管理職だけの問題ではなく、一人ひとりの生き方の問題でもある。以下いくつかの視点を見て見よう。いずれも難しいテーマであるが、幹部を目指す皆さんには、これらの問題に向かい合うことが求められている。
1 働き甲斐
警察官としての誇りは何だろう。それを更に高めるためにどうしたらいいだろう。
そういう根本問題に真正面から向かい合うことが大切だ。
2 ワークライフバランス
全職員の問題として組織を挙げて向き合う必要がある。職員全員がそれぞれの幸せを実現させる職場とすること。退職後への展望も含めた様々な問題が関わっている。コロナ渦の影響で意識の変化も大きく、家族、とりわけ配偶者まで含めての理解を得る配意が欠かせないだろう。最早、滅私奉公の時代ではない。
3 働きやすい職場
様々な視点からの職場環境の改善の意義は改めて指摘するまでもない。パワハラ、セクハラ、マタハラなど、取り組むべき問題は尽きない。
4 人事評価制度の見直し
士気を上げる為、組織を挙げてその改善に取り組まなければならない。賞罰を巡る諸問題は幹部の責務である。
5 階級と給与の関係
率直に言えば、「わたり」の功罪再検討だ。昇任試験を経ずに待遇を良くするため推薦昇任制度を増やしたことの負の影響をどうしたらいいか。
終わりに
昇任試験対策では、これら問題へのしっかりした準備が肝要だ。個別の更なる考察などは、場を改めて行いたい。