巻頭言

2023.11.01
巻頭言

ベスト2023年11月号 巻頭言を掲載しました

大国相争う混迷の国際情勢
~米中ともに影響力低下必至~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 国際構造は大きく変化する局面に入った。局地的な紛争が一層増すだけでなく、解決できずに、混迷の度を更に深めるという悪循環に陥った可能性が高い。治安を預かる警察官にとっては、誠に憂慮すべき時代となることを覚悟せざるを得ない。警察幹部を目指す皆さんにとっては、国際情勢への見識が問われる場面が増すことになるわけで、国際情勢への目配りは欠かせない。
 本稿では、国際構造の大きな転換期にあることを取り上げたい。

 国際社会においては、長い間、アメリカが「世界の警察官」を担ってきた。アメリカは、第二次世界大戦に勝利した時点で戦火を免れた唯一の大国であり、突出した経済力を持っていた。
 その後、様々な推移はあったものの、アメリカの突出した影響力を誰しもが求め、半世紀近い東西陣営の対立においてですらアメリカの優勢は明らかだった。ソ連崩壊でアメリカの勝利に終わったことから、アメリカ主導の国際環境が続くと思われた。

 しかし、実際のところは、アメリカの覇権が確立されたわけではなかった。むしろ、アメリカの衰退が益々顕著になる時代の始まりであったのだ。現在では、自国の利益のみを追求せざるを得ないという状態になっており、なりふり構わぬ「アメリカ第一主義」は、衰退するアメリカのゆとりのなさを象徴しているとも言われる。
 この背景には、アメリカの経済力が落ちたことが挙げられる。国内では格差が広がり、社会全体の分断が深まっている。とてもではないが、外国で指導力を発揮できる状況ではない。特に、イラク、アフガニスタンに対する軍事介入の失敗は衰退を早めてしまった。今後も、アメリカは、内向きで、自国の利益を最優先する流れを変えられないだろう。

 これに対して、中国は、アメリカのGDPの7割を超えるまでに成長し、近く追い越せると意気盛んだ。しかし、今は問題山積。誰もが認める世界一の大国となるという夢は、急速に危うくなりつつある。むしろ、今がピークで、これからは下り坂に入る可能性すら高い。
 中国の人口は、昨年から減少期に入り、今年はインドに抜かれて世界第二位に転じた。そして、少子高齢化社会への転換は、我が国よりも急速だ。「一人っ子政策」を30年余り実施した結果、出生数の低下が著しい。2022年の合計特殊出生率は、我が国を下回る1.09であり、人口維持に必要な数値の約半分にすぎない。社会保障制度も欠陥が大きいので、国民の負担増大は必至だ。
 経済の先行きについても、黄色信号や赤信号が灯る。いよいよ不動産バブルがはじけだしたおそれがある。地方政府の巨額債務についても抜本的な対策が限られている状況であり、アメリカと中国の対立が強まる中で海外投資が急減している。先端半導体などの不足も、じわりと悪影響を及ぼしている。焦って統制を強めているようだが、経済成長には明らかに逆効果だ。
 若者の失業率は20パーセント超という惨状。実際には50パーセント近いという見方もある。国内治安にとって深刻な問題だ。とにかく、経済の先行きが危うい。

 ……というように、アメリカと中国は、ともに抱える問題が大きすぎるため、とてもではないが外国に構っているゆとりがない。そういう時代になったということなのだ。

 ウクライナ戦争は泥沼の様相を強めており、アフリカではニジェールでクーデターが発生するなどの混乱が続いている。中東ではシリア、アジアではアフガニスタンやミャンマーなどにおいて、国民の惨状が放置されている。山積する問題を前にして、「国際的な取り仕切り役」を担う国がないという混迷状態となっている。

 こうした状況の下、我が国の外国人比率は今後どんどん増える可能性が高い。在住外国人数は2022年には299万人だったが、2050年には1,000万人を超え、都会では10パーセントが外国人という多国籍社会になる可能性がある。警察にとっても、そうした時代の変化を踏まえた諸々の準備が重要になる。昇任試験でもこの観点からの準備が欠かせないだろう。

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