ベスト2024年3月号 巻頭言を掲載しました
令和6年能登半島地震の教訓
~今後の災害への備えとして~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
元旦から祝いの気分も吹き飛び、災害への心構えを新たにさせられた。今年の昇任試験では、各種災害警備に対する出題に焦点が当てられることは必至だ。万全な備えを怠ってはならない。
以下、まず思いついたポイントを書いてみる。各自の視点で、今後の課題としての意見を言えるようにしておきたい。なお、具体的であればある程、評価が高いのは当然である。
1 耐震改修率の低い建物の危険性
1981年の建築基準法改正以前の旧基準での建築物で、耐震改修されていない建物の危険性が、あらためて明らかになった。石川県では、4分の1が未改修という。今回、倒壊して多くの犠牲者を生じた最大の原因である。なお、放置状態の空き家も年々増えている。防犯上の問題だけでなく、火災や地震による倒壊など、問題が多い。
2 二階建て家屋の一階部分の危険性
圧死した人は一階に集中していた。命を守る観点から、忘れてはならない事項だ。なお、ハザードマップはあくまでも一般的な参考情報にすぎない。重要なのは、個別具体的に自宅の危険性を再点検することだ。耐震性、地形、海抜高度などを、しっかり確認しておきたい。警察官の心得として、自宅の防災対策から始めなければならない。後顧の憂いをなくさなくては、安心して出勤できない。
3 通信の遮断
能登半島の地形が影響し、山道の奥に散在している集落が孤立した。電源が途絶えたことから、被災4日目あたりからSNSに頼った通信が不可能になり、情報の伝達が遮断される地域が多く出た。地域ごとに通信遮断への対応を練ることの重要性が痛感させられた。ソーラーパネルや通信衛星なども考慮に入れた対応改善が急がれる。
4 流言飛語
人種等のヘイト関連は、古くからの問題だ。今回も、多くの流言飛語の類が見られた。特に、SNSを介した偽動画や偽情報の流布が多発した。言論の自由との関連で微妙な問題だが、各方面の対応が必要だ。警察としての対応には、専門部門による慎重な判断がなされるべきだ。
5 災害に乗じた詐欺などの犯罪
市職員を装った寄附金募集、支援物資を集める名目での詐欺電話、不要な住宅改修を誘って解約に多額の違約金を請求する詐欺、火事場泥棒の類の出没などが報じられ、警察活動による安全安心活動の意義を、再認識させられた。
6 避難の在り方をめぐる問題点
地域の特性もあったが、ますます、高齢の避難者が増えることに対応する必要があると感じられた。今回は、冬季の寒さの中の避難であったことに伴う問題も目立った。寒い時期、体育館などの床に高齢者が密集している映像は、海外ではどういう印象を与えるか。あまりに劣悪な避難状態だ。イタリアなどでは、プロの調理師による温かい食事の提供が普通になっている。自治体による被災者対応という基本から、見直すことが急務だ。
7 災害関連死から浮かび上がる問題点
災害関連死の多さは、それ自体が被災地支援体制の問題点を図る指数と受け止めなければならない。
8 地域事情に留意した対策
例えば、首都直下地震、東海・東南海・南海地震など、それぞれの地域の特性に応じて、予想される災害が異なり、それぞれに対応した警察としての対応重点課題がある。そうした視点での準備が欠かせない。阪神・淡路大震災、東日本大震災、平成28年熊本地震などでの教訓も貴重な材料だ。
今回も、痛感させられたが、液状化の及ぼす問題点、阪神・淡路大震災では、兵庫県警が警備本部として想定していた施設が使用不能だったこと、警察署、駐在所の倒壊が起きたことなどを忘れてはならない。