ベスト2024年10月号 巻頭言を掲載しました
まずは声掛けの習慣化を
~幹部に求められる人間観察力の養成~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
幹部は部下の力を引き出し、率いるチームの力を最大限にすることが期待されている。言い換えれば、結果として、組織におけるトータルの成果を高めることが求められている。
昇任試験では、幹部としての資質や能力をみる。端的に言えば、部下の力を引き出し、預かったチームが最大限の成果を上げる力量の有無がみられているのだ。幹部を目指す際には、この根本的なポイントが分かっているかどうかが決め手になる。
したがって、昇任試験で合格を目指す人は、その養成が欠かせない。また、そこを理解し、試験ではそこをアピールする心得・配意が肝要である。そのための幹部(を目指す人)の心得を問われれば、まず、「部下を観察する力」が挙げられる。
その始めの第一歩は、部下への声掛けだ。声を掛けられれば、普通、相手は悪い気はしないだろう。返事かポーズかは分からないが、何かが返ってくる。
声掛けが苦手な人は声掛けに努めることだ。習うより慣れろ。まずは意識し、やがて、習慣化を目指すのがいい。声を掛ける・掛けられることから人間関係が始まる。人間関係が構築できれば、職場の風通しが良くなる。声掛けは対話のきっかけであり、対話を続けるためには、相手の話を真摯に聞くことが肝要となる。
声掛けへの相手の反応は全て、部下の心を理解する有力な情報になる。だから漫然と声を掛けるのではなく、人間への関心、観察しようという気持ちが大切なのだ。習慣化ができた段階で次に目指すのは、「観察力の養成」である。部下に無視されるということですら、重要な情報、すなわち、問題解決の手がかりとなる。
部下から力を引き出すには、部下を観察することが重要だ。観察力を高めるためには、前提として、人間への興味が必要である。人間に興味があることは、幹部としての大切な資質なのだ。
実は、人間観察力は幹部に限らず、全ての警察官にとって、欠かせない資質である。非行や自殺はもちろん、あらゆる犯罪は人間(犯人)そのものの心に深い関係がある(更正や再犯防止は何にもまして心が肝要なことは分かりやすいだろう。)。全ての警察官にとっては、相対する人間を観察し、見えない心の底まで見抜く能力が重要だ。
また、幹部の能力として、部下に関する情報収集能力も欠かせない。その第一歩が声掛けである。正直なところ、部下に声掛けをする習慣のない者や声掛けが苦手な者は、上司からすると一目瞭然である。一目瞭然だからこそ、決して幹部には引き上げられない。
心当たりのある人は、まずは気軽に声掛けすることを習慣にしよう。それができたら、だんだん意図的(観察するため)に声を掛けられるようにしたい(相手を選んで、観察するために声を掛けるということ。)。これができる頃には、あなたは幹部になっていること請合いだ。