巻頭言

2024.11.01
巻頭言

ベスト2024年11月号 巻頭言を掲載しました

匿名・流動型犯罪グループの現況
~取締りの強化のために~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 警察は今、匿名・流動型犯罪グループへの取締りの強化が求められている。その位置付け、特徴、取締りの重要性など、ポイントを要約すると以下のとおり。

 犯罪は時代と共に変化する。例えば、暴力団構成員の数は減少傾向にある。2023年には、暴力団構成員及び準構成員等の総数は約20,400人で、前年から約2,000人減少した。また、暴力団構成員等による刑法犯の検挙件数は、2023年には約9千件台に減少した。警察による長年の暴力団対策の成果と言って良い。
 暴力団犯罪の減少につれ、準暴力団、半グレの台頭が大きな問題となってきた。暴力団と同程度の明確な組織性はないものの、構成メンバーが集団で、常習的に暴力的な不法行為を敢行する元暴走族などのグループ。これも警察の徹底した取締りで衰退していった。

 そして現在、新たな形態の犯罪グループの台頭が問題となっている。特定の組織に属さず、SNSなどを通じて緩く結び付き、離合集散繰り返す、流動的な関係性で犯罪行為に及ぶ集団であり、匿名・流動型犯罪グループと呼ばれる。その特徴は、①SNSや求人サイト等を利用して、その都度、実行犯を募集(犯罪実行者の流動化)、②TelegramやSignal等、匿名性の高い通信手段を活用しながら役割を細分化(犯罪の匿名化)、③特殊詐欺や強盗・窃盗等の違法な資金獲得活動で蓄えた資金を基に更なる事業活動に進出(活動実態の匿名化、秘匿化)である。
 ガールズバー、デリヘル、キャバクラなど、いわゆる正業を通じた多角経営によってマネー・ローンダリングをし、その資金が更なる犯罪に使われるといったリスクも特徴的である。暴力団及び準暴力団等は、解明する対象に何らかの組織的なつながりがあるのに対し、新たなグループには解明の取っ掛かりが見えないという特徴があることが、捜査に対するハードルを高めている。

 また、SNS型投資・ロマンス詐欺が現在急速に増加しており、匿名・流動型犯罪グループの関与がうかがわれている。2024年上半期被害額は約660億円、前年1年間の約455億円を上回っている。
 SNS型投資詐欺とは、SNSで著名な実業家などに成り済まし、投資名目で金銭等をだまし取る手口をいい、SNS型ロマンス詐欺は、SNSやマッチングアプリなどを通じて、恋愛感情や親近感を抱かせ、金銭等をだまし取る手口をいう。前者については、サクラ多数のLINEのグループトークに参加させるなど、SNSを介した犯行が典型的だ。ネットの広告などを通じてカモを集めている。捜査は、そうした広告を手掛かりに開始する。新たな形態の犯罪には新たな捜査手法の獲得が必要になる。まさに知恵の捜査である。

 そのほか、銅線、銅板、マンホールといった金属類等を対象とした組織的窃盗・盗品流通事犯も現在急増している。国外に不正に輸出されている状況もある。このプロセスに介入する悪質ヤードも存在する。自動車盗の被害車両が悪質な解体業者のヤードに持ち込まれ、解体された後、国外に不正に輸出されている事案もある。いずれも匿名・流動型犯罪グループとの関連が濃厚とされている。

 匿名・流動型犯罪グループ取締りにあっては、その中枢にいる主犯容疑者の検挙、犯罪収益の剝奪、関係機関・業者との連携が重要である。さらには、海外当局との連携の強化が必要だろう。そして、誰でも犯人にも被害者にもなりかねない時代になっていることを意識し、ネット空間の防犯広報を行うことが重要だ。

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