ベスト2025年3月号 巻頭言を掲載しました
「困っている人」には温かく寄り添う
~誇りある警察官像を抱け~
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株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
警察に古くから言い伝えられる言葉には、今日にあってもよくかみしめてみるべきものが多い。
「悪しきを挫き、弱きを助ける」もその代表だろう。「気は優しくて力持ち」「悪い鬼退治」など、桃太郎や金太郎といった寓話のヒーローに、警察官のあるべき姿を託す言い方もそうだ。
今回は、「弱き人には温かく」ということをよくかみしめてみたい。
人に接する際の「温かさ」は、広く警察官としての基本となる情報センスにも通じる要素を持っている。
忙しさの中、とかく事務的、形式的な処理に流されがちな傾向がある。しかし、その中にあっても、警察官の助けを求めている人々に対して、まずは正対するという心構えが大切だ。しっかりと向かい合い、しっかりと話を聞くことから、全ては始まる。
事件・事故は、警察官にとって日常的であっても、都民、国民にとっては一大事、まさに非常事態である。警察官に話をするということだけで緊張したとしても、何の不思議もない。そうした都民、国民の立場に立って、親身に話を聞くという姿勢が肝要だ。
「都民のため」、「国民のため」とは、今、皆さんが接している人のためということ。目の前の人にとって、「警察」とは「あなた」のことなのだから。初心忘るべからず。警察官であることに慣れすぎてはならない。目の前の相手に正対し、安心させて、ちゃんと話を聞く。そして、困っている人の心情を汲んで親切に受け答えするのである。
もちろん、警察官はよき観察者でなければならない。目の前の人の姿かたちから、心の中までしっかりと観察することが前提だ。単なるお人よしではない。そこはプロの警察官としての大前提だ。
潜む犯罪の端緒は、抉り出さなければならない。人は見かけによらないため、心の中まで見通す観察力が求められる。色々な人と接して話をする。そこで得られることは、全て情報の端緒である。同じ話を聞いてもピンとくる人とこない人がある。また、そもそも話してもらえるかもらえないかでも差がでる。これは、日頃の関係の積み重ね、信頼度の差であって、人と人との接し方は奥が深い。
警察官は感度のいい聞き手でなければならない。人の話を聞く際の感度の良し悪し。そうしたことの積み重ねが情報センスという言葉で集約される。
警視総監訓示、警察庁長官訓示といったものは繰り返し・繰り返し熟読しておかなければならない。そこに盛られた言葉・フレーズに関しては、どこを出題されても自分の意見が言えるくらいにこなしておくべきだ。
当然ながら、弱者を助けるには、実力を身につけなければならない。プロとしての誇りの裏付けには、不断の修養が欠かせない。くどくどと駄文を続けることは不要だ。各自の気力、体力、執行務に必要な知識、技能などの修練、修養を祈る。