ベスト5月号 巻頭言を掲載しました
コロナ禍の治安への影響
~高まる警察への期待~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
コロナ禍の影響は様々な面に及んだ。警察にとっての影響、とりわけ今後の職務関連での対策に関して考察してみたい。今後の昇任試験対策として、欠かせない視点であることは改めて言うまでもない。
大前提として、徹底した感染防止対策がなされることは確実であろう。警察の職務には、様々な人との接触が避けられないという特徴があり、感染予防対応での難しさを伴う。留置場管理をはじめ捜査対象の感染確率が高いことは、予防対策の困難さを示している。警察官はハイリスクな職種であることを認識し、プロフェッショナルであることが欠かせない。
そのうえで、治安上留意すべき事項を指摘したい。まず、2020年の犯罪動向から、感染拡大と関連の可能性の高い事項は、以下のとおりである。
*虐待の疑いで警察から児童相談所に通告した18歳未満の子どもは、前年比で8.9パーセント増の10万6,960人、児童虐待件数が同8.1パーセント増の2,131件と、いずれも過去最多を更新した。
*配偶者などパートナーからの暴力(DV)に関する相談件数も、前年比0.5パーセント増の8万2,641件と、過去最高となった。
いずれもコロナ禍の中での影響が大きいと考えられる。家族内など、表に出にくい性質の問題であることを併せて考えれば、数字の背後に潜む、表面化していない実態の深刻さを疑わなければならない。
感染防止のために人との接触が控えられる中、地域の見守りの目が行き届きにくくなっている。早期発見に向けた児童相談所や学校などとの連携の下で、第一線警察官の役割の重さを感じさせられる。
さらに懸念される傾向として、サイバー犯罪がある。必ずしもコロナ禍の影響とばかりは言えないが、警察として、挑戦を受ける新たな課題であることは間違いない。
2020年に全国の警察が摘発したサイバー犯罪は、過去最多の前年比4.1パーセント増、9,911件となった。サイバー攻撃とみられる不審アクセスも最多を更新した。新型コロナ対策に関連したサイバー犯罪も目立った(以上、警察庁2月4日発表)。
在宅勤務などにより在宅時間が拡大したため、家庭でのパソコン利用を狙ったサイバー犯罪の増大がみられる。企業や研究機関の重要情報を狙ったウイルスを仕込んだメールが送られる「標準型メール攻撃」被害が相次いだ。その実態は、発表された数字にとどまらない大きなものであろう。身代金要求型ウイルス、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受けた企業は多く、身代金の支払に応じた企業も少なくないとの調査もある。また、クレジットカード情報を抜き取ろうとするフィッシング詐欺なども急増した。問題は、この種犯罪が企業の信用リスクに関わるため表面化されにくく、警察に相談されるケースが少ないことだ。サイバー犯罪の増勢を前に、警察の対策刷新が期待される。
この度のコロナ禍は、治安基盤に大きな影響を及ぼした。警察には、新たな犯罪情勢を先取りした機敏な対応が期待される。