ベスト8月号 巻頭言を掲載しました
常日頃の勤務実績が決め手
~客観的な視点に立とう~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
久しぶりに、アンケートを読んでの感想を披瀝(れき)したい。
当然ながら、今年こそ受験勉強に集中して合格を勝ち取るべく取り組むといった決意表明のオンパレードだ。それ自体は全うなことであり、本社スタッフ・職員一同、合格の栄冠を勝ち取るように全力で支援したいと決意を新たにしている。
他方、合格は職場での評価の集大成であるという客観的な視点への言及が乏しいことが気がかりでもあり、この至極当然の前提が理解されているのか、いささか不安を覚えることもある。
警察組織の幹部として、どういう人を選抜するべきか。昇任試験の意義はその一点に集約されており、当然のことながら、その選抜に組織の将来は託されている。まさに組織存亡の要、それだけに真剣に選抜している。どういう人を合格させたらいいのか。それは、当然のことながら、単なる知識の有無といった単純なことではない。合格した人を見る職場のトータル評価が、「あの人は、仕事もせずに試験勉強ばかりしている」ということであってはならないのだ。合格者を決定する前に、その観点を神経質に見極めようとしている。
昇任試験における最も重要なポイントは、常日頃の仕事ぶりだと断言しても良い。「あの人は率先して仕事で苦労している」、「勤務する姿勢が他の模範とされている」、「彼の昇任は誰しも納得」、というのが理想だ。こうした本質を忘れてはならない。だから、昇任させたい人に「勉強しろ」「勉強しろ」としつこく言っているのだ。小うるさい上司だ、などと反発せずに素直に感謝すべきなのだ。
試験に限らず何事においても、自分を客観視する心掛けが肝要だ。受験勉強に集中するのは良いが、自分が周囲からどのように見られているのか、客観的に自分を見つめる視点を欠いてはならない。何年も不合格となっている人の中に、少なからず、自分が見えなくなっている人が存在するのではないか。
幹部選抜の昇任試験は、根底に職場での評価が存在している。ストレートに言えば、職場の同僚が納得する勤務ぶりであることが前提なのだ。昇任試験勉強は、その日常の勤務成績の集大成なのだ。
まずは、日常の勤務に励むことだ。勤務に必要な知識、技能を修得するということ。受験のための、日常の職務と遊離した知識や技能ではない。勉強する際にも、取り扱った事象の中での生きた知識技能とすべく心掛けてもらいたい。問題集に書かれたものとしてではなく、将来の実務に役立つものとしての理解習得に努めてもらいたい。もしもこういう事案に出くわしたらどう処理するか、実務に結び付けた想像力が最も有効だ。過去問においても、可能な限り自分が取り扱うことを前提に、自信の持てるまで確認することが有益だ。
日常の勤務こそが最高の勉強の場だということを忘れずに、取り扱い事項に全力で立ち向かってもらいたい。それでこそ本当の実力がつく。分からないところは、職場の同僚・上司に聞くこと。聞くことができることが進歩の第一歩、「聞くは一時の恥」と言うではないか。聞かないこと、分かった振りをすること、それこそ一生の恥となる。そんな姿勢では昇任試験の合格はおぼつかない。
取扱事項で疑問の生じた場合には、関連法規・内規・取扱要領など、できるだけ根拠に当たって勉強すると良い。そうした習慣が身に付けば、その人の実力はみるみる向上する。そうした実務に直結した勉強に勝る方法は無い。付け焼刃でない本物の実力は、こうして獲得するのだ。
皆さんからのお便りやアンケートは、我々にとって宝の山だ。スタッフ・職員で回覧して熟読している。多少耳の痛い向きは、大願成就を祈ってあえて筆をとった次第であることを忖度してお許しいただきたい。