巻頭言

2022.02.01
巻頭言

ベスト2月号 巻頭言を掲載しました

先んずれば人を制す
~ことわざに学ぶ~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 親から子へそして孫へと、代々口伝で語り伝えられてきた知恵の結晶が「ことわざ」という形で残っている。先祖伝来の教えという財産だ。その多くは誰の言い出したものというのでもなく、みんなにとって当たり前すぎてとりわけ注目されることも少ない。しかし、改めてその教えるところを顧みてみれば、学ぶことの多い共有財産となっている。時代が変わっても、人間のやることには、そんなに変わらない。時にはそうしたことわざに向かい合ってみることも有益であろう。
 「点滴岩をも穿つ」「ちりも積もれば山となる」「早起きは三文の得」「笑う門には福来る」「情けは人の為ならず」といったものが浮かんでくるのではないか。
 もっとも、若い人にはなじみも薄くなって、違った解釈がなされているものもあるようで、クイズ番組で本来の意味を問うようなものもあるようだ。筆者は、「情けは人の為ならず」がそうした出題をされているのを見た。そして正解者の少なさに驚いた記憶がある。情けをかけるとやがて自分に返ってくるから情けはかける、という意味だが、人のためにならないから情けはかけるな、との理解が進んでいること驚いた。伝承の力も少々危うくなっているのだろう。コミュニティの力の衰えでないことを祈りたい。

 本稿では、そうした中から「先んずれば人を制す」という言葉を取り上げてみよう。意味するところはいたって単純で、何事も早いものが有利ということ。そりゃそうでしょう、という話だが、多くの人にとっては、分かっているけど実行できないものではないだろうか。

 長いこと昇任試験と付き合ってきたが、傾向を分析すると、早く準備を始めた人が圧倒的に有利、という単純な結論になる。それこそ警察学校卒業から引き続いて勉強してきた人は、おしなべて昇任も早い。まずは仕事を習熟してから勉強しようという発想は間違いなのだ。仕事と勉強を分けて考える発想からして間違いということ。勉強は仕事の前提であり、仕事の裏付けの知識を確かめることは最善の勉強なのだ。仕事の根拠になる法令規則などを確認するということは、自信を持って仕事に臨む基になる。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が最善の勉強になる所以でもある。
 したがって、部下を持つ立場たる上司としてはOJTに長ずることが求められる。昇任試験にあってもそうした心構えが肝要だ。警察組織のリーダーとして部下を束ねる管理者を選ぶということと、警察官としての職務に求められる知識技能を勉強させるということ(後者を、警察は教養という言い方をしてきた)。昇任試験には、管理能力と警察教養を高める目的がある。

 一刻も早く、勉強への姿勢をとることが昇任試験合格の決め手になる。本誌購読者はその点はクリアしているから、後は何としても結果をつかみとってほしい。スタッフ一同そういう気持ちで皆さんに寄り添いたいと願っている。
 皆さんが目指すべきはスタートダッシュを利かすことだ。漫然とやるのではなく決然とやることだ。念願成就を祈っている。

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