巻頭言

2022.09.01
巻頭言

ベスト9月号 巻頭言を掲載しました

安倍元総理暗殺事件の教訓
~狼を捕獲する為に何をすべきか~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 究極の生命・身体の保護である警衛警護は、何としても万全を期さねばならない警察の責務であることは言うまでもない。選挙運動中の安倍元総理への凶行は、警察組織の失態として、全ての警察官が重く受け止め、再発防止への取組をしていただきたい。
 また、昇任試験でも様々な形で出題されることが予想されるので、参考までに、一OBとしての取り敢えずの考察を披歴したい。

 まずは、現在において、警察の情報収集が難しくなっているということを前提とした取組を考えること。ここが警察挙げての喫緊の課題だからだ。
 本事案の犯人は、前日早朝(午前4時頃)、宗教団体関連施設に向けて銃弾を試射した。近所住民は、大きな異常音を聞いたという。しかし、警察への通報はなく、事前に警察の知るところとはなっていなかった(各紙報道、以下同じ。)。また、犯人は、居住するマンションの部屋から、深夜に異常なノコギリ音を発し、これを隣近所の住人が聞いていた。これも警察への通報はされていない。そのほか、犯人は、ネットに多くの発信をしていた。そこからは激しい教団への怨恨が読み取れる。また、叔父などから犯人の宗教団体への恨みの強さを示す数々の証言も聞かれた。しかし、これらはいずれも犯行後に寄せられた情報で、事件の際立った異常さを指摘するものであった。
 警察として、これらの情報を事前に入手し活用するには、どうしたらいいだろうか。その為の取組への知恵と決意が求められている。今日の社会は、各種連帯や市民のつながりが薄れており、警察としての情報収集力の低下が問題となっている。巡回連絡をはじめとする関連事項についての改善改革議論は避けられない。

 多数の都市住民の中から、どういう人が危ないのか。その選別、絞り込み。SNS上の無数の発信の中から、どういうものが危ないのか?見逃せないものを発見するためにはどうしたらいいのか?多くの民間の人々の協力を得る必要がある。その為の提案は?等々…
 警察官として、警察組織として改善すべきこともあろう。また、広く民間の協力を求めるべきこともあろう。それらの改善点の提案は高く評価される。真剣に考えていることをアピールするべく、万全の準備をしてかかることだ。
 警衛、警護体制や実施要領などに関する専門的な検討とは別の、全警察官に関わる情報収集の改善策などは、昇任試験対策での視点においても、必ず問われるものであり重要である。

巻頭言一覧ページに戻る