ベスト7月号 巻頭言を掲載しました
自爆テロの恐怖
~防止の難しさ~
株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
ニュージーランドでのモスク連続銃撃テロ(2019・3・15)、スリランカでの教会やホテルへの同時多発爆弾テロ(2019・4・21)と世界を震撼させる事件が続いた。両国の事件に共通するのは、自らの命を捨てた自爆型テロであったこと、事件発生までは比較的安全な地域とされ、テロへの警戒が低かったという点である。自爆型テロリストを前にすれば、世界中安全な場所などない。どこでも起き得るとの不安感が一挙に高まった。テロを巡る情勢の変化は、予想を超えたものがある。
両事件に共通するのは、宗教的憎悪と不寛容性であり、自己中心的な排他主義だ。不景気が長引き様々な格差拡大が進む中で、宗教や価値観などでの多様性を受け入れない主張の高まりが背景にあるのだろう。自国の利益を優先するとの政治的風潮(ポピュリズム)の広がりも進んでいる。
スリランカ事件の背景について、ISの過激思想と戦闘員の世界的拡散が指摘される。イラク、シリアで戦闘経験を経たテロリストの国際的な拡散は深刻だ。外国から集まったIS戦闘員がシリアに4万人程いたと推定され、その内、少なくとも数千人が今も各地に拡散している。
ISの影響で最も特徴的なのは、信仰の力による自爆型テロへの呼びかけだ。自らの命を犠牲にする自爆テロには、人間にとって容易に乗り越えられない壁があるが、その壁を信仰の力で乗り越える。少なくとも、熱心な信者にとっては乗り越えることは不可能でないことが、多くの事例によって証明されている。スリランカでの同時多発自爆テロでは9人の犯人がその例に加わった。犯人の残した映像には、IS指導者への忠誠を誓う姿があった。夫を失い絶望した未亡人の復讐心でもなく、判断力の欠ける年少者を自爆に駆り立てたわけでもなく、既存のイメージのテロではない。神に与えられるという永遠の命を信じたのだろうか?信仰心という特殊な魔力に恐れを抱かせる。
治安機関は、自爆テロの防止という極めて難しい難題に迫られることになった。特別の手段があるのではない。あるのは基本の積み重ね。社会を構成する全員の力を結集するということしか思い当たらない。これからの治安は、総員参加型になるということだ。
銃器に加え、爆弾及び生物化学兵器などの製造材料の厳重な管理・封殺が最大の前提条件になる。この点で、世界で最も管理されている我が国の状況は素晴らしい。さらに一層、管理された状況を徹底することだ。島国で国境管理がしやすいことは有利だ。
社会を挙げて、テロリストへの監視の目をより高度なものにする努力をすべきだ。その為に、テロリストに関する目を養う情報発信が望まれる。総員態勢で社会を守るという原点に立ち返るのだ。教育の場での、安全・安心向上への理解向上が肝要だ。社会各分野での、人と人との関係構築に知恵を奮うべきだ。警察官も、地域社会とのかかわりを持つよう努めたい。趣味や町内会活動などに現役時代からかかわるようにすべきだ。
今月は、やや公安面・国際面に偏った文章になったが、世間一般、特にこれからの我が国を支える若年層は、我々の予想を超えるスピードで国際感覚を身に付けている。そうであるならば、当然、読者の皆さんとしては、そのスピードを超えて国際感覚を身に付けなければならない。これは、全ての警察官が心に留めておくべきだということを認識してもらいたい。