巻頭言

2019.11.01
巻頭言

ベスト11月号 巻頭言を掲載しました

官民一体となった取組
~オリンピック・パラリンピック対策~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 東京2020オリンピック・パラリンピックは、前回の1964年大会と比較すれば、参加選手数はオリンピックで約2倍の約1万1千人、パラリンピックで約10倍の4,400人という空前の規模となる。しかも大都会のど真ん中での開催。警察には、世界各国から、交通対策をはじめ各種テロ対策など広範で多様な取組が期待されている。警察にとっては、様々な課題があるが、基本的な考え方をしっかり理解してかかることが肝要だ。

 以下、昇任試験でも問われること必至の、その基本となるところを概観しておこう。

 最も重要なのは、官民一体の取組だ。交通対策、テロ対策などの諸対策で、官民一体での取組をいかに実効あらしめるかに成否がかかっている。本稿では、テロ対策について触れてみる。
 過去の事例を挙げてみよう。ニューヨークのタイムズスクエア爆発テロ未遂事件(2010年5月1日)では、駐車車両内から起爆装置、花火、ガソリンタンク、ガスボンベなどが発見された。車両から煙が上がっているのに気付いた露天商の通報が第一報だった。
 新宿青酸ガス事件(1995年5月5日)では、丸ノ内線新宿駅地下公衆便所内に青酸ガス発生装置を仕掛けられ、出火に気付いた通行人の通報を受けた地下鉄職員が消火した。
 両事例では、一般市民(通行人)の発見、関係職員(地下鉄職員)の適切な行動が決め手となっている。まずこのことを肝に銘じたい。広範な関係者に理解・協力への働き掛けが肝要だ。
 その際のポイントを挙げるならば、次のようなことであろう。
・ 爆発物の原料となり得る化学物質の販売専門業者等と連携した原料対策
・ 旅館業者、宿泊事業者、不動産事業者等と連携した宿泊施設対策(当然ながらフロントなど客と接する全職員が要)
・ 重要インフラ事業者等と連携したサイバー対策
・ レンタカー事業者等と連携した車両突入防止対策
・ 事業者等と連携した鉄道テロ対策
・ その他、地域住民や民間業者と連携した取組

 警視庁は、歌舞伎座(2019年3月)等でのテロ対処訓練など、職員・業者の参加を得た犯人制圧、爆発物処理訓練を実施しているが、実際に体を動かしての事前訓練は有効だ。加えて、テロ対策への関心を高めるパレードやイベント参加など、日頃の地道な努力の積み重ねも重要である。市民の記憶は驚くほど早急に薄れがちなことを忘れてはならない。
 そうした際、広報のポイントは、不審物を発見したら①触らない(爆発する可能性)、②距離を取る、③遮蔽する、である。
 さらには、「いつもと違うな」「何かおかしいな」と思ったら、迷わず警察官に通報するようにお願いすることも重要である。そのためには警察官が日頃から市民と良好な関係を築いていくことも大切だ。

 2020東京大会の成功を目指した取組に最大限の努力をお願いしたい。昇任試験対策としても、具体性のある取組を含めた決意表明を準備しておくべきだろう。

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